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「やれば出来る」は嫌いだが

かなり昔、美術部の部長を務めていた生徒さんに、絵の巧さを羨ましがる発言をしたことがあります。

 

「絵が巧いのって良いよねー。どうやったら巧くなるん?」
彼は言いました。「やっぱり描き続けることですよ。対象をじーっと観察して、イメージが湧くまで見続けて、何度も描くんです。努力でかなり巧くなりますよ。」

 

返答に際しての表情も表現も柔らかなものであったため、愚かな僕は、彼が発言の陰に忍ばせたプライドに気づかず、数年後に美大志望の生徒さんに同じような質問をしてしまいました。

すると彼はこう応えました。
「先生、大して頑張った経験無いでしょ。絵は、対象をしっかり見て何度も何度も描き続ければ巧くなりますよ。僕の絵は今こんな感じですが、もっと巧くなります。みんな才能だけで絵の巧さが決まると決めつけてくるけど、才能じゃないんです。」

 

はい、がっつりお説教されました。実質、同じ理由で2度。

以来、僕は絵を描くことに少しだけ真摯になり、運が良ければそれなりにまともなものを描けるようになりました。僕が描いた象を見て、絵の巧い姪が描いたと親に勘違いさせたことも。

 

 

努力だけで100%決まるとまでは思わないけれど、生まれ持った才能の差だと思い込んで何もしないのは勿体ないなと思うわけです。