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時を経てようやくわかることもある

 思い詰めている受験生に、「大人になって振り返ると、大学受験なんて人生のTop20にも入らないくらいのイベントだよ」と語ることがあります。しかし実際問題、大学受験通過前の人にそれを実感しろというのは乱暴な話。

「後になって振り返ると、経験してきた辛いことの99%は、楽しい思い出として笑い飛ばせるよ」と話すこともありますが、これもまた同様。

 

 僕は現役の時に大学の法学部の受験に失敗したのですが、当時は何と、翌日の朝刊(もしかしたら当日の夕刊だったかも)に合格者の名前が掲載されるというとんでもないことがまかり通っていました。すると理系学部の合格者欄に、僕の名前とは最後だけ、しかも突き抜けるか否か程度の違いしかない別の漢字を持つ名前の人が載っていて、それに目を留めつつ「俺の代理で合格した人がおる」と空しく笑っていた折も折、中学時代に同じ水泳部員だった友人から電話がかかってきました。

 

「新聞見たよー おめでとう!!」

 

 

 僕は努めて冷静に、「別人なんよ。受けた学部も違うし、最後の漢字が違ってて…」と告げました。

 

 気まずい(awkward !)。地獄のような空気です。不合格直後で、まだ激烈に落ち込んでいましたが、この時ばかりは友人のことが心配になりました。

 

 永遠とも思える数秒を経て、友人は言いました。

 

「えーっと…母さんに…代わるね…」

(オカンに代わるんかーい!)

 

 今ではただ楽しいだけの思い出。
なお、40歳時に召集される中学校の大規模な同窓会の時に、本件を笑い話として披露したら、件の友人に笑顔は見られず、随分と困り果てていました。彼の方が心の傷が大きかったのかもしれない。

 

 で、上述の件については、「その後」を経験していない段階で理解しろなんて言う気はさらさら無いし、いずれ僕の言う通りであるとわかるはずだから、「今はわからなくてもしょうがないか」で済ませるのですが、自殺だけは、これらと似ているようで大違いだから認めない。

 

「死んだ方がマシだ」

「生きていても良いことなど無い」

 確かにその通りかもしれない。

でもね、死んでマシな状態になれたかどうか、あなた自身は確認できませんよ。

僕はこれを根拠に、自殺という行為を全否定します。それと、ただ単純に悲しいから嫌だ。

 

 そして、ほぼ全てのケースで、生きる方がマシであることを僕は知っている。

僕自身、結婚して可愛いこどもにも恵まれて普通に生活できる日が来るとは思いもよらない時期が、8年も続きました。

 

 どうしても信じられない人は、生き抜いた末に、「ほらー。生きてても悲惨ですやん!」と、僕に文句を言い来てくださいな。

 

お詫びに食事をご馳走しますので。